「桐島、部活やめるってよ」

ある金曜日の放課後、松籟高等学校のバレー部キャプテンで成績も優秀な桐島が部活をやめたというニュースが生徒のあいだを駆けめぐった。女子の憧れのまと、男子の理想像というスター的存在の突然の話に衝撃がはしる。
校内美人系ナンバーワンと目されるガールフレンドはとまどい、桐島に電話もメールもシカトされていらだつ。周囲の女生徒たちにも大波小波の程度の差はあれ波紋が及ぶ。桐島に近い男子生徒は不意のことにどうしてよいやらわからず、バレー部員はパニック状態だ。いっぽう、桐島とは接点がなく、その対極にいるのが映画部の生徒たち。ゲテモノ映画に夢中のかれらは、からかいの対象であり、生徒間の傍流の果てに棲息している。

部活のあいだに、そして部活所属の生徒どうしの関係に格差がある。桐島の意志とは関係なく集団も、個人も桐島との距離が階層序列になっている。スクリーンに姿を見せない桐島だが、知性、運動能力に秀でた彼が部活をやめたのはもしかするとこの状態が原因しているのかもしれない。
子細に見ればバレー部は格差的な関係がきつく、反対に映画部はない、もしくはきわめてゆるい。かれらは部活を単位に人間関係をつくり、そこに閉じこもり、他の集団とはなるべく関わりあわないかたちで共存している。
こうしたなか桐島のニュースが生徒集団のありように変動をもたらす。関わりあわない共存という秩序が揺らぐ。
吉田大八監督はこの揺らぎをいろんな視点から追いかける。時間の経過を前後させ、ときにおなじシーンをカメラの位置を変えて撮る。それぞれの生徒の立ち位置によって感じ方、意味合いは異なる。おなじ場面をカメラの位置を変えて見せられるとそのことがよくわかる。
とても面白くて、魅力あるドラマだ。面白さ、魅力のひとつに現代の高校生の人間関係がある。それはドラマの基盤でもある。
かれらは帰宅部を含め、部活ごとに細分化されている。それぞれの部活はたこつぼ型になっている。男女の関係は別として、よその部活とは関係しない。けれど隠れたところでは微妙な接点もある。元野球部員で桐島に近い優秀な男子生徒とずっこけの野球部キャプテンだとか、メインストリームの側にいる女子バドミントン部員と映画部で監督を務める男子生徒が中学校の同級生でときに話をする関係であったりだとか。
表の秩序と裏の微妙な関係のなかで生きる高校生たちの日常を桐島退部のニュースが襲い、それぞれが否応なく動き出す。クライマックスの舞台は学校の屋上。ここで桐島ともっとも親しい友人の菊池宏樹(東出昌大)といちばん遠い存在である映画部の前田(神木隆之介)が8ミリカメラを媒介に思いもよらぬ会話を交わす。
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面識のある方が二人エキストラ出演していて、うち一人はエンディングロールに名前が出て「オッ!」なのだった。
(九月八日シネリーブル池袋)