銀座の宵闇

君恋し」がフランク永井リバイバル・ヒットしたのは昭和三十六年だった。「宵闇せまれば悩みは果てなし/みだるる心にうつるは誰が影」。小学生だった当方がどれほどこの歌を理解していたかは心許ないけれど、よい歌だなあと思ったのをおぼえている。(作詞:時雨音羽、作曲:佐々紅華)
フランク永井は二番までしか歌っていないが、のちにオリジナルの二村定一盤には「去りゆくあの影消えゆくあの影/誰がためささえんつかれし心よ/君恋しともしびうすれて/えんじの紅帯ゆるむもさびしや」という三番があるのを知った。この「えんじの紅帯ゆるむもさびしや」に着目すれば、「君恋し」の「君」は男であり、女が男を恋した歌と解せられる。二村は女になり代わって男を慕う情を歌っていたのだった。
宵闇せまる銀座をあるきながら、ときに心の中で「君恋し」を歌う。昭和戦前のモダニズムとそのころの銀座のカフェの女給さんの面影を偲びながら。