大晦日の「コンチネンタル」

二0一一年締めくくりの映画はシネマヴェーラ渋谷での名画二本立て。まずは「恐怖の報酬」次いで「コンチネンタル」。ともに観てはいるけれどスクリーンでの「コンチネンタル」ははじめて。
アステア=ロジャース映画はオバマ大統領が就任演説で「Pick Yourself Up」の歌詞の一節を用いていたので、よい機会と「有頂天時代」を見直して以来だ。
さて「コンチネンタル」。これが美麗ぴっかぴかのプリントで、錦上花を添えてくれていた。

「コンチネンタル」は一九三四年の作品。日本では翌年に公開されている。『空中レビュー時代』で初共演し、人気を博したフレッド・アステアジンジャー・ロジャースのコンビ初主演作であり、以後「ロバータ」「トップ・ハット」「艦隊を追って」「有頂天時代」「踊らん哉」「気儘時代」「カッスル夫妻」そしてコンビ解消後の再会セッション「ブロードウェイのバークレー夫妻」とつづく。
「The Gay Divorcee」つまり陽気な離婚というのが原題。離婚訴訟中のジンジャーにアステアが一目惚れしてのてんやわんや。コール・ポーター作曲の「夜も昼も」が素敵で、二人のダンス・ナンバー数あれど、優美、エレガントという点では最高に位置するのではないかな。リゾート地での浜辺を背景とした優雅なダンスは夢のよう、うっとりしてしまう。
くわえてラストでは名曲「コンチネンタル」のメロディにのっての群舞が繰り広げられる。ここでは毎度、心躍り、浮き浮きした気分になり、自然と笑みがこぼれる。
前年の「四十二番街」ではバスビー・バークレーの振付による大掛かりなレビューシーン、大人数のダンサーによる万華鏡的な映像が話題を呼んだ。「コンチネンタル」はアステア=ロジャースの至芸にくわえ、万華鏡的な映像をしっかり受け継いでいるのがうれしい。その後もRKOで「トップ・ハット」「艦隊を追って」「踊らん哉」「気儘時代」を撮ったマーク・サンドリッチ監督の出世作ともなった。
「コンチネンタル」から「四十二番街」へ。わたしの情報不足ならさいわいだけれど、このミュージカル映画の古典がいまだにDVDになっていないのが残念でならない。レーザー・ディスクの寿命は短かったがLDでは発売されていて、このとき買っておいたのはもっけのさいわいだった。バイ・プレイヤーとして出演しているジンジャー・ロジャースが注目されはじめた作品でもあるから、アステア=ロジャースのコンビを後押ししたと考えてよいだろう。
そんなことをあれこれと思いつつ、めずらしく地下鉄でiPod touchを聴きながら帰宅。アルバムはもちろん「コンチネンタル」を収めるジョージ・シアリングクインテットの名演集。

家に帰ってジンジャー・ロジャースの自伝を開いてみた。それによると、アステアはロジャースとのコンビが固定的になるのを心配して二の足を踏んでいたらしい。彼にはミュージカルしかないから慎重にならざるをえない。そこへゆくと「わたし」(ロジャース)はミュージカルだけではないから、余裕があるし、アステアとのコンビに固執もしていないといったことが書いてある。アステアは一八八九年生まれだから当時四十代半ば。対するロジャースは一九一一年生まれの二十代前半、意気軒昂なヤンキー娘だ。
「四十二番街」については「唯一の不満は、私のその後のキャリアはこのミュージカルなしでは語れないとされていることだ」と述べている。こういうおきゃんなところが彼女の人気の一因でもあったのだろう。
ひと休みすると新年の跫音が近づいてきたので御一統さんとお近くの根津神社へ。零時の開門とともに若者たちの歓声があがった。初詣のあと巫女さんから御神酒をいただき、そのあとビールで乾杯。

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