2019-01-01から1年間の記事一覧

ブリュッセル(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ四十一)

アントワープをあとにしてブリュージュへ引き返し、そこからブリュッセルへ向かった。ブリュージュとブリュッセルのあいだは九十六キロメートル、バスで一時間二十分ほどの行程だ。 ブリュッセルはベルギーの首都、またEUの機関も多くある国際政治の重要都市…

「フランダースの犬」(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ四十)

小学五年生のお正月に吉永小百合主演「青い山脈」を観たあと、たまたま書店の棚に新潮文庫の石坂洋次郎『青い山脈』を見つけ、さっそく読んだ。心に吉永小百合の寺沢新子を思い浮かべながら。わたしが本を読むのが好きになったきっかけである。 ただしそれ以…

ワッフル(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十九)

酒が好きだから甘いものはあまり口にしない。どうしてそうしなければいけなのかはよく分かっていないのに、健康上そうするものだといわれてなんとなく従っている。べつに苦手ではないから勧められると食べるが、自分から求めることはほとんどない。 しかしオ…

ギルドハウスとブラボーの像(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十八)

正面の建物は市庁舎とともにマルクト広場を囲むギルドハウス。町の繁栄と商工業者のギルドの力が示されているようだ。ヨーロッパでは旅行社の添乗員がガイドの行為をするのは禁じられていて、罰則規定も設けられている。また、日本のような企業別労働組合で…

アントワープ市庁舎(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十七)

聖母大聖堂から広がるマルクト広場にはギルドハウスや写真のアントワープ市庁舎が建つ。もちろん現役の市役所で、正面の旗が華やかな彩りを添える。 建立されたのは一五六一年から六五年にかけてだから、百年以上かけて建てた建築物がざらにあるなかでは短期…

ルーベンス(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十六)

若いときから絵心も、絵画を鑑賞する気持もさほどなかったわたしは大学受験の知識としてルーベンスの名前を記憶するだけだった。ただ「ルーベンスの偽画」という小説があるのを何かで知っていて、いまになって誰が書いたのか見てみると堀辰雄だった。この作…

ルーベンスの像(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十五)

アントワープのノートルダム寺院の祭壇正面には「キリスト昇架」や「キリスト降架」が飾られている。作者はバロック期を代表するルーベンス(1577-1640)で、その才能は一六00年から一六0八年にかけて滞在したイタリアでミケランジェロやラファエロたちの…

アントワープ聖母大聖堂(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十四)

ブリュージュからアントワープへはバスで九十二キロ、およそ一時間二十分の行程だ。 土砂の堆積により港湾都市の機能が果たせなくなったブリュージュが衰退し、代わって重要性を増したのがアントワープだった。外国商館がブリュージュからアントワープへ移転…

ベギン会修道院(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十三)

運河を進むクルージングは愛の湖公園でUターンする。ここはブリュージュの内港だったところで昔は船が忙しく往き来していたそうだ。いまはロマンティックな名前と雰囲気の公園となっていて鴨やカモメ、白鳥などが生息する。 公園と隣接しているのがベギン(…

聖母教会(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十二)

クルージング船から撮った聖母教会。ゴシック式の教会の高さは百二十二メートル、煉瓦造りの塔では世界有数のものだ。 ここはミケランジェロの聖母子像があることでもよく知られている。残念ながら時間の関係でクルージングか聖母子像の二択となってしまい、…

荷風とローデンバック(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十一)

ローデンバックは『死都ブリュージュ』のはしがきで、本書では恋愛の情熱について考察を加えたとともに、さまざまな心のあり方と結びついた重要な登場人物としての都市のイメージを喚起したかったと述べている。 その意図は完璧に活かされ、ブリュージュとい…

和田誠さん、ありがとう

原作と映像とのコラボによるわたしのアガサ・クリスティー攻略作戦、今回はエルキュール・ポアロのシリーズ中の傑作「白昼の悪魔」だ。テレビドラマは二度目だが、この機に原作を読んで、殺害された女の義理の子供を娘から息子に変える(正解だな)などアン…

朝のマルクト広場と鐘楼(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十)

ブルージュの中心にあるのがマルクト広場だ。およそ1ヘクタールの骨格の大きな広場では十世紀以降、市が立ち、また集会やお祭り、処刑などもここで行われた。 十四世紀はじめに竣工した町のシンボルである鐘楼は八十三メートル、三百六十六段の階段をのぼる…

ブリュージュ市庁舎(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十九)

ブルク広場に建つ美しいゴシック式の市庁舎。九世紀ここにノルマン人の襲撃に備えた要塞(ブルク)がつくられ、これが町のはじまりとなった。ブリュージュ発祥の地である。 建物向かって右側にはキリストの聖なる血がおさめられている聖血礼拝堂がある。小規…

「悲しい町」の現実(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十八)

「雨は秋の終りに頻繁におとずれる霧雨で、垂直に落ちてくる細かな雨はさめざめと泣き、水玉を織りなし、大気を仮縫いし、平らな運河を針でおおい、そして人の魂をとらえ、おののかせる」「それにブリュージュはまた、午後の終りにはなんと悲しい町となるこ…

ヴェネツィアの嫉妬(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十七)

ブリュージュには「北方のヴェネツィア」という異称がある。ヴェネツィア、ブリュージュはともに水の都であり、栄華と衰退という歴史においても似ている。 ローデンバックはヴェネツィアから見たブリュージュをこんなふうに述べている。 「今日忘れ去られ、…

運河(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十六)

繁栄する貿易港、地域経済の中心地だったブリュージュは十五世紀に水流の変化と土砂の堆積により大打撃を受けた。 『死都ブリュージュ』を含む『ローデンバック集成』(高橋洋一訳、ちくま文庫)に収めるエッセイ「ブリュージュ」はその経緯を次のようにしる…

イメージの都市(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十五)

ローデンバックは『死都ブリュージュ』のはしがきに、わたしはとりわけ一つの都市を呼び起したいと思った、物語の展開を促すのはブリュージュの景観という舞台装置であり、そのために河岸、ひとけない通り、古い家屋、掘割、ペギーヌ会修道院、教会、礼拝用…

『死都ブルュージュ』(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十四)

日本で『死都ブリュージュ』を高く評価した人に永井荷風がいる。「三田文学」大正元年九、十月号所載の「文藝読むがまゝ」で荷風はこの作品を『廃市の鐘』の題で紹介してあらすじを述べ、さらに舞台を奈良の都にして古代を崇拝する詩人と現代的な女性との恋…

ブリュージュ(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十三)

いよいよ今回の旅の最大のお目当ブリュージュに着いた。ローデンバック『死都ブリュージュ』を読むまでこの都市を知らなかったけれど、一読してたちまち行ってみたいところとなった。手許の岩波文庫(窪田般弥訳)の奥付は一九八八年三月第一刷とあり、届く…

風車(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十二)

オランダのハーグからベルギーのブリュージュへ向かうとちゅうキンデルダイクへ寄った。オランダ第二の都市ロッテルダムから南東約十三キロに位置しており、レク川とノールト川に挟まれた地区だ。 十八世紀に造られた風車が十九を数え、どれもたいへんよい状…

「ブラックブック」(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十一)

オランダを舞台にした映画といえば「アンネの日記」「真珠の耳飾りの少女」「小さな目撃者」などが思い浮かぶが、旅行に出るまえ予習の一環として、いま国際司法裁判所をはじめ百五十ちかい国際機関があり、ニューヨークに次ぐ国連都市として重要性の高まる…

「ディアナとニンフたち」(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十)

「真珠の耳飾りの少女」に着想を得て書かれた同名小説の作者トレイシー・シュヴァリエは、絵に描かれた少女の表情は矛盾だらけで、無垢でありながら擦れていて、喜びにあふれていながら悲しみに満ちていて、希望にあふれていながら喪失感に満ちている、と述…

「デルフトの眺望」(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十九)

現存するフェルメールの作品は三十三点から三十六点(研究者によって異同がある)と少なく、そのうちマウリッツハイス美術館には「真珠の耳飾りの少女」「ディアナとニンフたち」「デルフトの眺望」の三点が展示されている。 なかで「デルフトの眺望」はゴッ…

「真珠の耳飾りの少女」(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十八)

マウリッツハイス美術館が工事で休館しているあいだに日本とアメリカで「マウリッツハイス美術館展」が開催されていて、東京では二0一二年の六月から九月にかけて上野の東京都美術館で催された。 フェルメール「真珠の耳飾りの少女」については二00三年に…

マウリッツハイス美術館(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十七)

アムステルダムからバスでおよそ五十分、デン・ハーグへ移動した。 オランダの首都はアムステルダムだが議事堂、宮殿(アムステルダムにもあるが実質的には離宮)、各国大使館などはデン・ハーグにあり、ほぼすべての首都機能を担っている。 マウリッツハイ…

ビールとクロケット(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十六)

オランダもベルギーもともに気候は寒冷でワインの栽培には不向きな地域だ。代わって製造が盛んなのはビールだ。ただし今回の旅行中、食卓に出されたビールに限っていえばオランダとベルギーとではだいぶん事情が異なっていた。 オランダではハイネケン一色、…

アムステルダム・コンセルトヘボウ(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十五)

国立美術館のトンネルを抜けると雪国ではなくて広大な芝生の公園が広がり、その一角にヴァン・ゴッホ美術館のモダンな姿があった。 残念ながらゴッホを鑑賞する時間はなかったが、公園の向こう側、道路を隔ててなにやら気になる建物があり、急いで行ってみた…

自転車(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十四)

フォンデル公園を行く自転車。少々の雨はものともせず黄色の合羽を着けて走る。オランダの風物といえば風車、チューリップ、そして自転車。 この国では昔から自転車による移動が普及していて、第二次世界大戦が勃発した時期、夫とともにヨーロッパに滞在して…

フォンデル公園の紅黄葉(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十三)

今回の旅行では柴田宵曲『随筆集 団扇の絵』(小出昌洋編、岩波文庫)を携行していて、合間に読み継ぐうちに十数年ぶりに通読し、あらためて感嘆これ久しゅうした。 その一篇「月と人」に夏目漱石『文学論』の話題があり、そこで漱石は、多くのイギリス人は…