2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

不忍池でポケモンGO

書架を眺めているうちになつかしさから谷沢永一『紙つぶて(完全版)』(文春文庫)を手にした。一篇六百字、瞠目の書物コラムを通読するのはたしか四度目である。単行本『完本紙つぶて』は一九七八年文藝春秋刊、当時二十代後半だったわたしは一読して感銘…

ミハス(西班牙と葡萄牙 其ノ三十二)

ミハスは美しい町だった。白い家々を意味するカサブランカの町で、そうなると映画と相まってうれしくなるわたしだから、ここはスペインのカサブランカと思うとますます旅情が募るのだった。 ミハスの属するアンダルシア地方は「太陽の国」スペインらしく年間…

『伯爵夫人』

蓮見重彦氏の小説をはじめて読んだ。『伯爵夫人』である。 かねてより谷崎潤一郎『瘋癲老人日記』を現代日本文学の大傑作と評価するわたしは蓮見氏が二十二年ぶりに書いたというこの小説を読むうち、ときに卯木督助老人が日米開戦前夜にタイムスリップして小…

絵葉書(西班牙と葡萄牙 其ノ三十一)

普仏戦争の渦中、ドイツで兵士と大砲を印刷した葉書が発行され、これが世界で最初の絵葉書とされている。それから三十数年後、日本の逓信省は日露戦争の士気高揚のため「戦役記念」絵葉書を戦局の進展に応じて発行し、空前の絵葉書ブームを起こした。 パソコ…

「栄光のランナー/1936ベルリン」

オリンピックイヤーのことしはベルリンオリンピックから数えて八十年目にあたる。金メダリストの記録でいえば史上初の四冠(100メートル、200メートル、400メートルリレー、走り幅跳び)達成者を輩出したのがこの大会だった。米国代表の黒人選手ジェシー・オ…

フラメンコ(西班牙と葡萄牙 其ノ三十)

グラナダの夜はフラメンコショーに出かけた。静かなというよりさびしい感じがする狭い坂道をバスが上がって行くと、添乗員さんから、ここらあたりはむかしはユダヤ人の居住地でしたと説明があり、言われてみるとなんとなく疎外された地域の雰囲気を感じてし…

『レディ・ジョーカー』再読

Amazonビデオにあった二0一三年WOWOW製作「レディ・ジョーカー」を視聴してすぐに高村薫の原作を再読した。元版は一九九七年に毎日新聞社から刊行されているが、その後作者は新潮文庫版で全面的に改稿改訂の措置をとっており文庫版『レディ・ジョーカー』と…

「アンダルシアの宝石」(西班牙と葡萄牙 其ノ二十九)

グラナダには「アンダルシアの宝石」の異称があり、なかでもひときわ光彩を放つのがアルハンブラ宮殿だ。ならば「アルハンブラの宝石」は何だろう。少なくともそのひとつとして壁面や天井に施されたアラベスクの文様や意匠の傑作群がある。 文様、意匠の繊細…

「レディ・ジョーカー」と「ファミリーヒストリー」

Amazonビデオのコンテンツに「レディ・ジョーカー」があった。二0一三年にWOWOWが製作した本作をこれまで寡聞にして知らなかったが、かねてより同和問題が重要な要素として織り込まれた作品なので映像化は難しいだろうと考えていて予想が覆ったのはうれしい…

コマレスの中庭(西班牙と葡萄牙 其ノ二十八)

スペインにおける最後のイスラム王朝となったナスル朝がアルハンブラ宮殿をキリスト教徒軍に無血開城したのはコロンブスが新大陸を発見した一四九二年のことで、これによりレコンキスタは完遂されたが宮殿は残された。散策しながら魅力と魔力が宮殿を残した…

都知事選挙をめぐる雑談

東京都知事選挙関連のニュースで増田寛也という方が区長会や市町村長会の有志から出馬要請があったと段取りをしたうえで、自民党、公明党などの推薦を得て立候補表明するのを見て、通常だったらなんとも思わなかっただろうが今回は違った。 というのもいっぽ…

『アルハンブラ物語』(西班牙と葡萄牙 其ノ二十七)

十九世紀の前半、欧米においてアルハンブラ宮殿の知名度はそれほど高くなかったそうだが、アメリカ人の作家ワシントン・アーヴィングが一八三二年に発表した旅行記また伝説集でもある『アルハンブラ物語』がきっかけとなって一躍広く知られるようになった。 …