2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

美しき五月

「あひさしの傘(からかさ)ゆかし花の雨」。 元禄時代のマイナーな俳人の句を採り上げた柴田宵曲『古句を観る』にある印象深い句で、作者は淀水、「花の雨」という季語はこれで知った。 相合傘、男と女、花の季節の雨は絵画にしてみたい素材だが、俳句とし…

プラド美術館(西班牙と葡萄牙 其ノ十五)

プラド美術館。歴代のスペイン王家のコレクションを展示している。フラ・アンジェリコ「受胎告知」、エル・グレコ「胸に手を置く騎士」、ディエゴ・ベラスケス「ラス・メニーナス」、フランシスコ・デ・ゴヤ「着衣のマハ」「裸のマハ」などわたしでも知って…

『高い窓』訳文雑感〜タフについて

ハードボイルド小説の根幹をなす用語にタフがある。以下は、この言葉が『高い窓』の三つの訳書でどのように扱われているのかの一例で、同書15章にある、マーロウとロサンジェルス市警の刑事とのやりとり。はじめに村上春樹訳。 〈「おれたちはタフになるため…

スペイン広場(西班牙と葡萄牙 其ノ十四)

一九三八年(昭和十三年)秋から翌年の冬にかけて、作家野上弥生子はヨーロッパを旅した。大著『欧米の旅』はその記録で、なかに「スペイン日記」が収められている。 野上弥生子がスペインを訪れたのは一九三九年八月中旬のことで、マドリードには同月二十八…

『高い窓』訳文雑感〜フィリップ・マーロウのイメージをめぐって

二十世紀を代表する指揮者で、カラヤンの前のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者だったフルトヴェングラーは演奏家を再現芸術家と位置づけ、そのいちばん大切な行為を、楽譜の裏にある創作者の意図を見抜くことにあるとした。これにならえば文…

ドン・キホーテとサンチョ・パンサの像(西班牙と葡萄牙 其ノ十三)

スペインの首都マドリード。かつてのスペイン黄金時代、ここは新大陸から流入する富により繁栄し、十八世紀後半カルロス三世の時代に近代的な都市として整備された。 2014年アメリカの経営コンサルティング会社A.T.カーニーが公表したビジネス、人材、文化等…

タコノキ

名前は失念したが何とかという東大の英語の先生は、たいへんな実力の持主だったが植物名だけは苦手で、授業で樹木や草花が出てくるとすべて「ニワトコ」にしていたそうだ。たしか丸谷才一さんのエッセイで読んだ。 写真はさきごろ南イタリアを旅したとき、シ…

聖母ピラール教会(西班牙と葡萄牙 其ノ十二)

サラゴサの聖母ピラール教会(ヌエストラ・セニョーラ・デル・ピラール聖堂)。ピラールはスペイン語で柱を意味しており、この名はローマ時代(A.D.40年)、当地で布教していた聖ヤコブの目の前の柱に聖母マリアが現れたという言い伝えに由来し、大聖堂はこ…

「スポットライト 世紀のスクープ」

直球でぐいぐい押して来る本格派の投手のような映画だ。 事実に基づく話なので、ボストン・グローブ紙と担当記者には敬意を表すると同時にエンドロールで示された神父による児童への性的虐待の事例の多さに驚いた。 9・11同時多発テロに先立つ二00一年の夏…

ピラール広場(西班牙と葡萄牙 其ノ十一)

サラゴサのピラール広場。近くにはエブロ川が流れている。美しい大聖堂と町並み、整然とした長方形の広場はヴェネツィアのサン・マルコ広場を想起させるが、ヴェネツィアのように観光客は多くなく、そのぶんのんびりした憩いの場となっているのがうれしい。 …