2014-08-01から1ヶ月間の記事一覧

柳田格之進と武家のモラル

古今亭志ん朝『世の中ついでに生きてたい』(河出文庫)を読んだ。なかに志ん朝師匠と池田弥三郎先生との対談が収められていて、池田先生が志ん朝さんに「火事息子」で「いま通ったのだれだい」「酒屋のお父さんだよ」と言っていたと指摘すると師匠が「お恥…

エーゲ海の島(土耳古の旅 其ノ十三)

夕刻、エーゲ海とはすぐ近くのアイヴァリクのホテルに着いてすぐに海に出ると島が見えていて家や街のあかりがちらりほらりと灯りはじめていた。昨年イーストリバーをはさんで見たマンハッタンの夜景の美しさは格別だったが、この島の夜景もたいへんによい。…

『わが恋せし女優たち』余話

逢坂剛・川本三郎『わが恋せし女優たち』(七つ森書館)はたのしい本だった。本文を読み、写真を眺めているうちに華やいだ雰囲気に包まれ、心がときめき、甘酸っぱい思い出がよみがえった。 ミレーヌ・ドモンジョといえば一九五0年代後半に「悲しみよこんにち…

エーゲ海(土耳古の旅 其ノ十二)

エーゲ海の周辺は、古くはトロイ、ミケーネ、ミノスの文明を生み、さらにアテネやスパルタといった都市国家により形成されたギリシャ文明が栄え、時代が下がるとペルシャ、ローマ帝国、ビザンチン帝国、ヴェネツィア、オスマン帝国がこの地域に国家を形成し…

『わが恋せし女優たち』

逢坂剛・川本三郎のお二人はこれまでにも西部劇やミステリー映画についての対談本を出していて、その薀蓄と知見に舌を巻いたものだったが、こんどの『わが恋せし女優たち』(七つ森書館)には該博な知識に裏付けられた「恋せし」女優をめぐる話が満載されてお…

エーゲ海の夕陽(土耳古の旅 其ノ十一)

トロイ遺跡をあとにしてホテルのあるアイヴァリクへ向かった。旅行社からもらった旅程表には170km、およそ三時間とある。 トルコの旅は移動距離が長い。昨年の北イタリアもけっこうタイトな旅程だったがトルコと比較すると都市間の距離は短く、出発時間は午…

「ぼくを探しに」

「ベルヴィル・ランデブー」や「イリュージョニスト」などで知られるフランスのアニメーション作家シルバン・ショメがはじめて実写の長篇ドラマを撮った。 その「ぼくを探しに」で、幼いころ目の前で両親を失くした衝撃と深傷から言葉を口にすることができな…

カッサンドラ(土耳古の旅 其ノ十)

おなじテーマの映画でも「トロイのヘレン」と違って「トロイ」には予知能力を持つトロイの姫カッサンドラは登場しない。彼女は王子パリスがスパルタの妃ヘレンを連れて帰って来たときには戦闘につながると、また木馬を町に運び込もうとしたときは破滅につな…

カエサルと寅彦

小学生のとき理科の実験ノートとか気候と植物の成長との関連を記録したノートを提出したのを覚えている。知らずしらずのうちにいくぶんかは観察の訓練になったと思いたい。 自然と人事を問わず観察の重要は言うまでもなく、今日の空模様を見て明日の農作業の…

遺跡の復元(土耳古の旅 其ノ九)

写真はトロイ遺跡の一角。映画をめぐるエッセイ『人びとのかたち』で塩野七生さんは「私が知りたいのは遺跡ではない。遺跡ならば自分の眼で見ることができる。知りたいのは、遺跡が復元された状態なのだ。映画作品にも考証がゆきとどいているものがあるから…

あさきゆめみじ

明治の小学唱歌「浦島太郎」は「むかしむかし浦島は助けた亀に連れられて」ではじまり、四番の歌詞のところで土産にもらった玉手箱を持ってふるさとへ帰り、そうして「帰って見れば、こは如何に、元居た家も村も無く、路に行きあう人々は、顔も知らない者ば…

「トロイのヘレン」(土耳古の旅 其ノ八)

トロイとスパルタの戦闘を描いた「トロイのヘレン」(1956年)でヘレンを演じたのは二0一三年に七十九歳で亡くなったロッサナ・ポデスタで、その美しさは五十年代の若者の胸を焦がしたという。わたしが彼女を知ったのは「ルパン三世」に影響を与えたといわ…