2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「朝顔の蕾のやうなあの筆先で書いた恋文けさ開く」

消費税率が上がった。無職渡世の年金暮らしだからこれまでとは身に沁みる度合が違う。収入増の可能性は皆無のところへ老後の不安が高まる。夜が冷たい、心が寒い、そしてフトコロはいっそう乏しくなる。このあいだ新聞で、ドジョウだなんだとか言っていた前…

イタリア・マイブーム(伊太利亜旅行 其ノ五十九)

2013年映画館で観た作品の悼尾を飾ったのは「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」。自宅でのDVDは「輝ける青春」。ともにマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督。意図したわけではないが、あれこれと手を出しているうちにこうなった。イタリアへ旅行してイタリ…

嵯峨美子「五月の風」

レコードを聴きながら本を読んでいると突然ガリガリっといやな音がした。見るとよちよち歩きの子供がプレイヤーのアームをつかんでレコードを引っ掻いていた。叱っても音は還ってこないし、レコード以上に心が痛んで、そのときは子育てなどするものではない…

ヴェローナのにぎわい(伊太利亜旅行 其ノ五十八)

旅から帰っていくつかのイタリア旅行記を開いてみた。ロミオとジュリエットの町だからそれぞれの屋敷やジュリエットの墓などのモニュメントを回ってきましたといった簡単なものはあるが本格的な紀行文は管見したなかでは唯一ゲーテの『イタリア紀行』のみだ…

「ブルージャスミン」

ジャスミン(ケイト・ブランシェット)は実業家ハル(アレック・ボールドウィン)の妻として、長年ニューヨークでセレブな生活を送ってきたが、結婚生活の破綻とともに一文無しとなってしまう。 靴店に勤めてみたもののそれまで交際のあった人たちが客として…

ヴェローナの城壁(伊太利亜旅行 其ノ五十七)

井上究一郎『幾夜寝覚』に著者が訳したジャン・グルニエ『孤島』のなかのヴェローナに言及した部分が引かれている。 「ヴェローナ、この町は閉ざされていてはいりこめない。『ロミオとジュリエット』が、ヴェネチアではなく、ヴェローナで起こるのは、それだ…

紹介『永井荷風と部落問題』

拙著『永井荷風と部落問題』(リベルタ出版2012年)が「人権フォーラム石川ニュース 第41号」(2014年5月1日)誌上で紹介されました。 筆者 高 隆造様の御了解のうえで以下に再掲させていただきました。併せて高様に感謝申し上げます。 この本の著者は、高知県の…

小浜奈々子、松永てるほ、岬マコさんとの歓談

大学生のころ長期の休みの終わりに地方の実家から新幹線で上京すると、東京駅へ着く手前で日本劇場が目に入ってすこしばかり浮き立つ気分になったものだった。いま有楽町のおなじ場所に建つマリオンを見てもそんな気にはならない。 早いものでその日劇がなく…

ロミオとジュリエットの町(伊太利亜旅行 其ノ五十六)

ヴェローナは「ロミオとジュリエット」の舞台となった町。 ジュリエットの屋敷へ行ってみるとここは観光名所として賑わっていたが、写真にあるようにロミオの家はひっそりとしていた。二つの家は歩いて十分ほどの近さで、キャピュレト家とモンタギュー家が対…

ゴンドラの舳先(伊太利亜旅行 其ノ五十五)

某日。古書店に註文してあったアンリ・ド・レニエ、青柳瑞穂訳『水都幻談』(平凡社)が宅急便で届いた。同日後刻、別の古書店からアンリ・ド・レニエ、窪田般彌訳『ヴェネチア風物誌』(沖積舎)が郵送されてきた。 永井荷風が絶讃する詩人、小説家アンリ・ド・…

記憶違いについての話

1 一九七一年の夏、当時七十五歳の思想家また西洋精神史の研究者林達夫がイタリアへ旅したとき、ヴェネツィアで映画「旅情」について語ったことが同行した田之倉稔氏の『林達夫・回想のイタリア旅行』にある。 それによると、あの映画のラストシーンでキャ…

須賀敦子のヴェネツィア(伊太利亜旅行 其ノ五十四)

須賀敦子にとってヴェネツィアは夫ペッピーノが「きっといつか僕が連れて行くと約束した場所のひとつ」だったが、それを果たせないまま彼は早逝してしまった。彼女がヴェネツィアにやって来たのは夫が亡くなった翌年一九六八年の冬、偶然のきっかけで友人に…