2014-04-01から1ヶ月間の記事一覧

「八月の家族たち」

オクラホマの片田舎。「口内にガンを患う妻は薬漬け、自分は酒びたり、健康など知ったことじゃない」とうそぶく夫。ところがその人が突然失踪して行方不明となる。 母親のもとに三人の娘たちが駆けつける。たちまち毒舌家の母親が、浮気した夫と別居中で子育…

迷路(伊太利亜旅行 其ノ五十三)

ヴェネツイァでの夕食前のひととき、同行の女性のひとりが、長友佑都選手のレプリカシャツを買ったと大喜びだった。すると何人かの女性がわたしも買いたい、案内してとそのお店に駆けつける。サッカーのイタリア1部リーグ(セリエA)、インテル・ミラノの長…

『文人荷風抄』

高橋英夫『文人荷風抄』(岩波書店2013年)は「文人の曝書」「フランス語の弟子」「晩年の交遊」の三章からなる。 著者は文人の属性のひとつとして曝書すなわち本の虫干しを挙げ、親の曝書は子供にとって言語世界に触れるだいじな機会であり、大きくいえば本…

水路(伊太利亜旅行 其ノ五十二)

「裏町を行かう、横道を歩まう」。永井荷風『日和下駄』にある裏道と横道の讃歌で、これに対する表通については、到るところ西洋まがいの建築物とペンキ塗りの看板、やせ衰えた並木、処かまわず無遠慮に突っ立っている電信柱、目まぐるしい電線の網目・・・・・・…

登仙の如く(伊太利亜旅行 其ノ五十一)

十八世紀末ナポレオンの占領によりヴェネツィア共和国は崩壊した。オスマン・トルコとの戦いに疲弊し、経済危機やペストの大流行がかつての繁栄の花をしぼませた。詩人バイロンはこの都市の痛ましさを哀傷感をこめて「運河のほとりに立ち並ぶ館は徐々に色褪…

2011年プラハでの岩崎宏美コンサートでチャスラフスカさんを見た

毎度のことながら情報に疎く、昨年十月に和田誠『いつか聴いた歌』の増補改訂版が愛育社から出ていたのとこれにあわせてコンピレーションのCD「いつか聴いた歌 スタンダード・ラヴ・ソングス」が発売されていたのを年が明けてから知り、さっそく買ってきた。…

ヴェネツィアン・グラス(伊太利亜旅行 其ノ五十)

イタリアから帰ってからヴェネツィアン・グラスでワインやウイスキーを飲んでいる。お酒は雰囲気で味わいたいほうだからグラスやコースターはよいものにしたくて、わたしにしては高価な買い物をした。 明治四年に米欧十二カ国の視察に出た岩倉使節団がヴェネ…

ゴンドラの模型(伊太利亜旅行 其ノ四十九)

ゲーテの父は1740年にイタリアを遊歴していて、そのときもとめた美しいゴンドラの模型を大事にしていた。三十七歳のゲーテがヴェネツィアを訪れたのは一七八六年九月末、このとき彼の心に父が珍重していたゴンドラの模型とともに、あるときこのゴンドラで遊…

『ヒットラー売ります』

一九三三年一月三十日ヒットラー内閣が成立した。つづいて二月には国会議事堂放火事件を機とする大統領緊急令にもとづく共産党への弾圧が行われ、三月にはドイツ議会が授権法によるヒットラー独裁を承認した。 五十年後の一九八三年四月西ドイツの有力週刊誌…

「リトル・ロマンス」(伊太利亜旅行 其ノ四十八)

旅行から帰りDVDでジョージ・ロイ・ヒル監督の名作「リトル・ロマンス」に再会した。かつて観たのは四半世紀ほど前だった。ストーリー、語り口の上手さは承知していて、加えて今回のお目当てはもちろんダイアン・レインとテロニアス・ベロナールの少年少女が…

「旅情」(伊太利亜旅行 其ノ四十七)

イタリアから帰国し「旅情」を検索してBlu-ray版が発売されているのを知った。カスタマーレビューによると画質も良いとのことでさっそく購入した。映像は期待に違わず、つい先日見た街の光景が1955年の映画にそのまま映し出されていた。 若い世代ではヴェネ…

「LIFE!」

ウォルター・ミティ(ベン・スティラー)は雑誌「LIFE」の写真管理部で働くきまじめな男だ。思いを寄せる女性と会話もできないほどひどい臆病で、それを補うかのような空想癖があり、そこではヒーローに変身する。 ある日、ウォルターは雑誌の最終号の表紙に…

「ゴンドラの唄」余話(伊太利亜旅行 其ノ四十六)

「ゴンドラの唄」には文学史上に名を残した人が何人も係わっている。 まずはアンデルセンの長篇小説『即興詩人』にある歌を森鴎外が稀代の文章に翻訳した。同書の「ベネチアのゴンドラ」の箇所を下敷きにして吉井勇が作詞し、中山晋平が作曲した曲を、1915年…

「ゴンドラの唄」(伊太利亜旅行 其ノ四十五)

森鴎外訳『即興詩人』でヴェネツィアに着いたアントニオは船ばたで少年が民謡を歌うのを聞く。「朱の脣に触れよ、誰か汝(そなた)の明日猶在るを知らん。恋せよ、汝の心(むね)の猶少(わか)く、汝の血の猶熱き間に」。 以下は吉井勇作詞、中山晋平作曲の「ゴン…

「あなたを抱きしめる日まで」

一九五二年アイルランド。十八歳で未婚の母となったフィロメナ(少女の頃を演じたソフィ・ケネディ・クラークはほんとうにジュディ・デンチが若返ったよう)は父親から義絶され、赤ちゃんとともに強制的に修道院に入れられた。そこは同様の立場にある女性と…

ヴェネツィアへ(伊太利亜旅行 其ノ四十四)

「旅情」のジェーン・ハドソン(キャサリン・ヘプバーン)は三十八歳の独身女性、アメリカの地方都市で秘書をしている。念願だったヨーロッパ旅行。ロンドンとパリを観光したあと最終目的地のヴェネツィアへは鉄道を使っていた。むかしは船路だけだったが、…

「ナポリを見て死ね」(伊太利亜旅行 其ノ四十三)

「ナポリを見てから死ね」といわれるほどこの都市の風光明媚な景観は素敵なものらしい。どうしたことかわたしは成人してからもなおナポリをベニスと取り違えて「ベニスを見て死ね」と思いこんでいた。刷り込みのいきさつや、何がきっかけでまちがいと知った…