2014-03-01から1ヶ月間の記事一覧

「シャイニーストッキングス」

たとえば晴れてさわやかな風のそよぐ夕方、交差点に向かってあるいていると、前で信号待ちしている人たちに夕日が射して、スーツ姿の女性の肌色のストッキングがかすかな赤みを帯びた輝きを発する一瞬があったりする。 こんなとき「シャイニーストッキングス…

海外旅行の大衆化(伊太利亜旅行 其ノ四十二)

二十世紀のはじめのフィレンツェにはイギリスからの在住者にくわえ多数の旅行者がやって来ていた。海外旅行の大衆化が進むと海外に出向くことを特権のように感じていた人のなかには新しい状況に冷たい視線を送る人も現れる。 E.M.フォースター『眺めのいい部…

褥中で観た「自転車泥棒」や「FOSSE」のこと

お正月のニュースで、港区の愛宕神社が今年から楽天Edyによるお賽銭奉納に対応したのを知った。賽銭箱ならぬ「さい銭端末」だそうだ。愛宕神社がある港区は楽天創業の地で、三木谷社長の申し出で試験的に導入したという。わたしのような硬直した老骨からみる…

トルコへ(土耳古の旅 其ノ一)

昨年の秋にヴェネツィアを旅したとき、眼前に広がるアドリア海を見て、この海を渡った彼方に位置するイスタンブールに行ってみたいと思った。そこはヴェネツィアの宿敵だったオスマン帝国の首都であり、また東ローマ帝国の首都コンスタンチノープルその地で…

「聖女カテリーナ像」

のちに作家、エッセイストとなる須賀敦子が新設された聖心女子大学に入学したのは一九四八年(昭和二十三年)のことだった。西洋史の授業でデンマークの作家ヨルゲンセンの著した『シエナの聖女カテリーナ』の英語版を読み、レポートしたのもおなじ年で、この…

「エヴァの告白」

エヴァ(マリオン・コティヤール)と妹マグダ(アンジェラ・サラフィアン)が戦争の影響で情勢が不安定な祖国ポーランドを離れ、ニューヨークに到着したのは一九二一年のことだった。その矢先入国審査でマグダは肺病の診断を受けて隔離される。エヴァもいっ…

イギリス人の旅(伊太利亜旅行 其ノ四十一)

西行の足跡をたどったり、『おくの細道』のコースを追ったり、古人があるいた旅の跡を訪ねる人は多い。誰かが言ったとか、日本人は人が行ったところへ行きたがる、それにたいしてイギリス人は未踏の地へ行きたがる、と。ここから判断するに、空海ゆかりの札…

パック旅行や旅案内のこと(伊太利亜旅行 其ノ四十)

パック旅行や旅行代理店のシステムを考え出したのは一八0八年にイギリスに生まれたトマス・クックという青年だった。自分もメンバーだった禁酒同盟の会員五百名を、さほど遠くない町での集会に連れて行き、食事やお茶の世話をした経験が一八四一年のトマス…

第90回新宿ー青梅かち歩き大会

第90回新宿ー青梅かち歩き大会に参加した昨日の日曜日。結果は昨年十一月とおなじ6時間50分ながら、順位は五つ落として57位だった。 ゴールのあと中央線河辺駅ビルにある梅の湯温泉で身体を癒したが、これほどの快感はめったにあるものではなく、それに昨日…

ムール貝(伊太利亜旅行 其ノ三十九)

「今夜は散歩して目についたレストランへ入ってみようよ」「当たりかハズレかは運次第」。 添乗員のNさんはピサでの夕食のために二三のレストランを紹介してくれたが、たまにはおあつらえではないところへ行こうとわたしたちは六人で出かけた。小さなレスト…

ピサのドゥオーモ広場で(伊太利亜旅行 其ノ三十八)

一九五三年須賀敦子はパリに留学したが当時の彼女には心からなじめる場所ではなかった。『ヴェネツイァの宿』には「夏休みには、イタリアに行ってみよう・・・・・・化石のようなアカデミズムにがんじがらめになって先が見えないままでいるよりは、もっと自然にち…

『父 吉田健一』

年明けに刊行された吉田健一の単行本、著作集に未収録のエッセイを集めた『おたのしみ弁当』(島内裕子編、講談社文芸文庫)を読んでいるうち昨年末に吉田暁子『父 吉田健一』が河出書房新社から刊行されているのを知った。 吉田暁子についてはエリオット・…

ピサの斜塔(伊太利亜旅行 其ノ三十七)

今回旅したフィレンツェ歴史地区、トスカーナ地方のメディチ家の邸宅群と庭園群、ローマ歴史地区、シエナ歴史地区 、ヴェネツィア、ヴェローナ市街いずれもユネスコ世界遺産として登録されている。斜塔のあるピサのドゥオーモ広場ももちろんそのひとつだ。こ…

「ダラス・バイヤーズクラブ」

難病ものの映画はいやで観ないのだが「ダラス・バイヤーズクラブ」には匂うものがあり、足を運んだところ、これが素晴らしい作品だった。 一人のエイズ患者を通して人間と社会がしっかりと、したたかに、興味深く描かれていて、難病ものという狭いジャンルを…

聖女カテリーナ通り(伊太利亜旅行 其ノ三十六)

添乗員のNさんからシエナでの自由時間の参考にと「SIENA散歩MAP」が配られた。広場から大聖堂、サン・ドメニコ教会一帯のわかりやすい地図で、主要な通りの名称も書かれている。 旅の手引書として持って行った『須賀敦子が歩いた道』の「シエナの坂道」には…

「十七歳」

フランソワ・オゾン監督「十七歳」は前作「危険なプロット」とおなじく十代後半の若者の怪しく不穏な心理を織り込んだミステリアスな物語だ。 パリの高校に通う十七歳のイザベル(マリーヌ・ヴァクト)は、夏のバカンスでドイツ人青年と初体験をあっけなく済…