2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『コーヒーと恋愛』

「てんやわんや」「自由学校」「大番」「青春怪談」「信子」「娘と私」。 思いつくままにこれまでに観た獅子文六原作の映画を挙げてみた。こんなにたのしませてもらっているのにこの作家の小説を読んだことがない。折よく『コーヒーと恋愛』がちくま文庫に入…

銀座テアトルシネマ

銀座一丁目に建つ銀座テアトルシネマが五月末を以て閉館する。いま劇場ではクロージング作品「天使の分け前」とともに、開館した1987年からこれまでのラインナップから選ばれた作品がナイトショーで日替わり上映されている。「バッド・エデュケーション」「ト…

オールド・パーを読み、そして飲む

エリック・アンブラー『グリーン・サークル事件』を興味深く読んだ。激動の中東をめぐる国際政治のなかでパレスチナ解放機構(PLO)から絶縁され分派活動をつづけるテロ組織が中東で同族企業を経営するマイクル・ハウエルを誘拐同様の身に置いて全面的な協力…

須藤公園

谷崎潤一郎は松子夫人を慕い崇拝し「松に倚る」という意味で倚松庵を名乗った。いま必要あって谷崎松子の前夫根津清太郎について調べている。根津商店という船場の大店の御曹司だったが家産を傾け尽くした。その生涯を描いた小説に三田純市「蕩児余聞」があ…

喉元過ぎれば・・・(関東大震災の文学誌 其ノ十四)

関東大震災からやがてひと月が経とうとしている九月二十九日寺田寅彦はベルリンに留学中の小宮豊隆への長文の書簡で地震被害が大きくなった要因について述べている。 〈今度の地震は東京ではさう大した事はなかつたのです。地面は四寸以上も動いたが振動がの…

無縁坂

森鴎外「雁」は一九五三年にお玉の高峰秀子、岡田の芥川比呂志、お玉を妾とする高利貸し末造に宇野重吉、六六年にはそれぞれ若尾文子、山本學、小沢栄太郎で映画化されている。お玉の住まいは無縁坂のとちゅうにあるから、ここへ来るとおのずと映画の二人の…

『定本 酔郷譚』

倉橋由美子『定本 酔郷譚』。文庫本の棚にあったその書名に心惹かれ即決購入した。 昨年の五月に刊行された河出文庫の一冊で、一九九六年四月から二00四年九月にかけて「サントリークォータリー」誌に断続的に連載された「カクテルストーリー・酔郷譚」の…

上野オークラ劇場

映画が好きだから、乏しいながら架蔵する本の何割かは映画本が占めている。酒量はたいしたことはないのにお酒も好きで、ウィスキーのトイメンに吉行淳之介編『酔っ払い読本』全七巻があったりする。この酒をめぐる小説やエッセイのアンソロジーはアメリカの…

「L.A.ギャングストーリー」

家族愛や人種差別問題とかが強調されて、ともすればアクション映画としてのおもしろさが減退してしまう傾向の見られる昨今のギャング映画だが、「L.A.ギャングストーリー」は原点回帰で娯楽性を徹底追求していてまことにめでたい。その心意気に嵐寛寿郎の「…

「最後の曲り角」

ジェームズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』の映画化にいち早く応じたのはフランスだった。ジャン・ルノワールもジュリアン・デュヴィヴィエもマルセル・カルネも企図したが最終的には1939年にピエール・シュナールが「最後の曲り角」の題で映画化…

『映画プロデューサー風雲録』

大島渚と山田洋次をふくむ十人の助監督が松竹大船撮影所に入社したのは一九五四年(昭和二十九年)四月、その五ヶ月後の九月に升本喜年(ますもと・のぶとし)という日大芸術学部を経て早稲田の大学院で演劇を専攻した青年が同撮影所のプロデューサー助手と…

つつじ祭り

四月の初旬からおよそひと月のあいだ、根津神社はつつじ祭りでにぎわい、一大観光地となる。 天保年間に刊行された『江戸名所図会』に根津権現は築山、泉水が設けられ、四季の花が絶えることのない「まことに遊観の地」とあるが、とくにつつじについての記述…