2011-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ビギン・ザ・ビギン

昨年、京橋のフィルムセンター小ホールで「踊るニュウ・ヨーク」(一九四0年、ノーマン・タウログ監督、原題Broadway Melody of 1940)を観たときはエンド・マークと同時に狭い劇場が拍手に包まれ、わたしもうれしくなって拍手、拍手でした。 フィナーレの…

瞬間日記抄(其ノ十一)

日本映画専門チャンネルで「下町」を観る。戦後四年目の春。シベリアに抑留されたまま生死不明の夫をお茶の行商をしながら待つ女(山田五十鈴)と荒川河川敷にある鉄材置き場の番小屋にいる男(三船敏郎)とが知り合いになる。木訥とした親切な男だ。男の妻…

ミリー・ヴァーノン「イントロデューシング」

水羊羹はどんなにおいしくても我慢して一度にひとつだけ。お茶は香りの高い新茶を丁寧に入れて、すだれ越しの自然光か、せめて昔風の、少し黄色っぽい電灯の下、クーラーではなく、窓をあけて、自然の空気、自然の中で味わいたい。 向田邦子は水羊羹をいただ…

映画「墨東綺譚」余話(其ノ四)〜荷風の刺青

この映画には、お雪が、あなた腕に刺青があるわねえと口にすると、荷風が腕をまくって見せるシーンがある。じじつ荷風は左腕内側に刺青を彫っていた。 『断腸亭日乗』昭和十一年一月三十日には「帰朝以来馴染を重ねたる女を左に列挙すべし」という有名な愛人…

映画「墨東綺譚」余話(其ノ三)〜玉の井と亀戸

新藤版『濹東綺譚』の見どころのひとつに細道の多い尾道につくられた玉の井のロケセットがある。監督は、このセットについて、玉の井の町を徹底的に考証して再現に努めたと述べ、復元にあたっての三つの要素として、荷風の文章と木村荘八の挿絵と監督自身の…

映画「墨東綺譚」余話(其ノ二)〜オペラ館のこと

玉の井の娼婦お雪は永井というお客が回数を重ねてやって来るうちに、親しみを覚えるようになるが、男は自分について、年齢や職業さえまったく口にしない。その言動からエロ写真の販売をなりわいとしていると推し量ったが、何にせよ自分とおなじ裏街道に棲む…

映画「墨東綺譚」余話(其ノ一)〜荷風と流行歌

「濹東綺譚」という映画は二本ある。ひとつは一九六0年の豊田四郎監督作品、山本富士子がお雪を演じた。もう一本は一九九二年の新藤兼人監督作品で、おなじタイトルながら、前者が小説「濹東綺譚」に即した(とはいえラストの改悪はひどいが)ものであるの…